近年、違法なソフトウェアの利用が問題視されている中、企業ではIT資産管理全般において、ソフトウェアライセンス管理(SAM)を行うことはいまや不可欠となっています。
企業がソフトウェア資産管理を実施をすることで、コンプライアンスという観点以外にビジネスの効率化など、さまざまなメリットを得ることができます。

本記事では、ソフトウェア資産管理(SAM)とはなにか、その目的や企業における導入メリット、ソフトウェア管理に必要な各種台帳などについて詳しく解説します。

ソフトウェア資産管理とは?

ソフトウェア資産管理(Software Asset Management:SAM)とは、企業内で使用するソフトウェア・ハードウェア・ライセンスを資産として、適切に管理・運用することです。 このソフトウェア資産管理(SAM)は、「ISO / IEC19770-1:2006」として国際的な基準とされています。

また、Information Technology Infrastructure Library(ITILv3)によると、ソフトウェア資産管理(SAM)は、「ソフトウェア資産の効率的な管理、コントロール、および保護に欠かせないすべてのインフラ基盤とプロセスで、ソフトウェアを利用する間は常に行うもの」と定義されています。これはつまり、ソフトウェアを資産と考え、契約内容や使用状況を正確に把握し、適切に管理するということです。

企業でソフトウェア資産管理を実践することで、どのソフトウェアをどのライセンスで利用しているかを把握し、正確に管理できるため、ライセンス違反や可用性の欠如などのリスクを軽減できます。さらに、適切なライセンス管理により、不要なライセンス投資を抑えるといったコスト削減を図ることも可能となります。

ソフトウェア資産管理の目的

企業でソフトウェア資産管理を行う目的は、主に以下の3つが挙げられます。

ライセンス管理の適正化

企業でソフトウェアを扱う際は、ソフトウェアのライセンス数やライセンス形態、インストールメディア、ライセンス証明書の所在といったライセンスに関する資産情報を管理しなくてはいけません。
ソフトウェア資産管理を行うことで、たとえばライセンスの移動が生じた場合でも、素早く正確に資産情報を変更することができます。

また、棚卸を実施する際にも資産情報を再度収集する必要なく、円滑に作業を進めることも可能となります。

投資の最適化

企業では、従業員の入社や退社、異動のほか、場合によっては企業合併などが発生することもあります。そのような事が起きた場合、デバイスやソフトウェア、ライセンスといった膨大な数のIT資産の移動が必要となり、その分の作業負担も大きくなります。

ソフトウェア資産管理を実施すると、正確な情報を記録し、資産の過不足が明確になるため、適正なライセンス管理によるコスト削減が実現します。 そのほか適正なライセンス管理により、ライセンスをユーザーごと、またはPCごとに購入するのかなど、今後コストをどのように振り分けていくのかといった判断ができるため、IT投資の最適化を図ることができます。

セキュリティ対策

ソフトウェア資産管理は、情報セキュリティの面においても大きな役割を果たします。

たとえば、企業で使用しているPCやソフトウェアの数、使用場所を正確に把握し、管理することにより、従業員が私用デバイスを持ち込み、業務に使用しているかの有無についても明確になります。 管理していないデバイスの使用を規制することで、社内の機密情報を保守し、外部への情報漏えいを未然に防止することができます。

参考
ソフトウェア管理の目的 | ソフトウェア管理のすすめ | ACCS
経営のためのソフトウェア資産管理 - JIPDEC


「IT資産管理」に便利な3つの理由 - 漏洩チェッカー

ソフトウェア管理のガイドライン

企業でソフトウェアを使用する際は、これからご紹介する「ソフトウェア管理ガイドライン」に従って管理・運用を行っていくことが重要です。

ソフトウェア管理のガイドラインとは

ソフトウェア管理ガイドラインとは、ソフトウェアの違法コピーなどを防ぐために、法人や団体などを対象として、ソフトウェアを使用するに当たって、実施されるべき事項をとりまとめたものです。1995年に経済産業省が策定しました。

なお本ガイドラインは、以下の3つの事項から成り立っています。

・法人等が実施すべき基本的事項
・ソフトウェア管理責任者が実施すべき事項
・ソフトウェアユーザが実施すべき事項

それぞれの内容については、以下のとおりです。

法人等が実施すべき基本的事項

(1) ソフトウェアの使用等を的確に管理し、ソフトウェアの違法複製等の行為を効果的に防止するため、法人等におけるソフトウェアの使用等について責任を負うソフトウェア管理責任者を任命し、ソフトウェアの適切な管理体制を整備すること。
(2) ソフトウェアの適正な使用等を確立するため、ソフトウェアの使用手順や管理方法等を定めたソフトウェア管理規則を策定すること。
(3) ソフトウェアの違法複製等の有無を確認するため、すべてのソフトウェアを対象として、ソフトウェアの使用状況についての監査(以下「ソフトウェア監査」という。)を実施すること。
(4) ソフトウェアの適正な使用等に対するソフトウェアユーザ意識の向上を図るため、関係法令や使用許諾契約等について、ソフトウェアユーザの教育、啓蒙を行うこと。

ソフトウェアユーザが実施すべき事項

(1) 関係法令、ソフトウェア管理規則及び使用許諾契約に規定された使用条件並びにソフトウェア管理責任者の指示を遵守すること。
(2) 法人等が保有するソフトウェアと個人が保有するソフトウェアとの区分が不明確になることを防ぐため、個人が保有するソフトウェアを法人等の事業所において使用する場合、予めソフトウェア管理責任者の承諾を得ること。

ソフトウェア資産管理の3つのメリット

企業では、ソフトウェア資産管理(SAM)を行うことで、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。ここでは、おもに3つのメリットについてご紹介します。

1.適正なライセンス管理によるコスト削減

ソフトウェア資産管理を行うメリットとして、適正なライセンス管理によるコスト削減の実現が挙げられます。

従業員の入社や退職、異動などにより、使わなくなったライセンスを正確に把握し、削除や再割り当てなどを行うことで、ライセンス費用やソフトウェアのサポート費用などのコスト削減を図ることができます。

またソフトウェア資産管理をすることで、ボリュームライセンスの検討など、今後コストをどのように振り分けていくかの判断材料にも役立てることが可能となります。

2.セキュリティ対策の向上

ソフトウェア資産管理を行うことで、セキュリティ対策の強化にもつながります。

企業内のデバイスやソフトウェアの数を正確に把握し管理することで、従業員が業務に私用のデバイスを使用していないか(BYOD)や、クラウドサービスを無断で業務に利用していないか(シャドーIT)といったことをチェックすることができます。
もし企業が、クラウドサービスの無断利用やBYODを許可していないにも関わらず、従業員が無許可で使用していた場合、そこから情報が漏えいするリスクがあります。仮に外部へ情報が流出した場合、従業員だけでなく企業にも大きな被害が及んでしまいます。

このような事態を防ぐためにも、企業ではセキュリティ対策の一つとしてソフトウェア資産管理を行うことはもはや必須と言えます。

3.管理状況の見える化

ソフトウェア資産管理を行うことで、ライセンス管理の見える化ができることもメリットの一つです。 現在企業内で保有するライセンス数はもちろん、インストールの形態や有効期限、ライセンス文書の所在などソフトウェアに関する情報をすべて見える化できます。
ソフトウェア資産を一元管理することにより、欲しいタイミングで情報を確認できるため、業務効率化を図ることが可能です。加えて、これまでソフトウェア管理に膨大な時間を割いていた管理者の業務負担軽減にもつながるでしょう。

ソフトウェア管理に必要な各種台帳

企業でソフトウェア資産管理を構築するにあたり、管理台帳の事前準備は欠かせません。とくにソフトウェア管理には、これからご紹介する「ハードウェア台帳」「導入ソフトウェア台帳」「ライセンス台帳」「ライセンス関連部材台帳」の4つの台帳が必要となります。

なお、台帳の作成方法はいくつかありますが、すぐに始められるのは表計算ソフトのExcelを活用する方法です。Excelを用いてそれぞれの台帳に一覧表を作成し、そこに必要事項を入力していくだけでも十分ソフトウェア資産管理は可能となります。
これら複数の台帳を利用することで、ソフトウェアの購入や破棄、棚卸などの作業を円滑に進めることができるでしょう。

参考:IT資産棚卸の3つの目的、注意点、効率化の方法を考える | 漏洩チェッカー

ハードウェア台帳

ソフト面を管理するためには、まずハード面の管理ができていなければ意味がないと言っても過言ではありません。ハードウェアには、PCやサーバ、タブレットなどさまざまなものがありますが、まずはこれらの情報をまとめるハードウェア台帳を用意しましょう。
ベンダーや機種、型番、シリアル番号に加え、ハードウェアを使用している部門、使用者、管理者といった情報をハードウェア台帳にて管理します。

導入ソフトウェア台帳

社内で導入しているソフトウェア台帳も必要です。ソフトウェア台帳では、ハードで実行しているソフトウェアに関する情報を記録していきます。ソフトウェアの名称をはじめ、エディション、バージョンのほか、製品・フリー・シェアなどの種別についても記録しておくと管理しやすくなります。
また、これらの情報に加え、社内で保有するライセンスに紐付いた管理番号も記録するといいでしょう。

ライセンス台帳

ソフトウェアのライセンスを管理するための台帳の作成も必要です。ライセンス台帳では、外部で購入したソフトのライセンス情報が対象となります。ソフトウェアの名称をはじめ、エディション、バージョン、ライセンスの種別・形態・使用許諾条件、証書番号なども台帳に記録するようにします。

ライセンス関連部材台帳

ライセンス台帳に加え、それに関連する部材台帳も必要となります。たとえば、導入用DVDなどのパッケージやメディアなどについて台帳へ記載します。

ライセンス関連部材台帳は、ライセンス台帳に比べると、重要度がやや低下してしまうことから、つい見落としてしまうこともあるため、忘れずに管理しておくようにしましょう。

まとめ

今回は、ソフトウェア資産管理について、その目的や企業における導入メリットなどについて解説しました。企業でソフトウェア資産管理を行うことで、情報セキュリティの強化をはじめ、IT資産の最適化やライセンスコンプライアンスの向上などを図ることができます。ソフトウェア資産管理を実施する際は、スムーズな管理を実現するためにも事前に台帳の準備をした上で運用を進めていきましょう。