働き方改革が進む中、自主的なサービス残業が企業にとって大きな課題となっています。生産性向上と従業員の健康管理の両立を目指す現代の経営者や人事担当者にとって、この問題は避けて通れません。本記事では、自主的なサービス残業の法的問題点や企業へのリスク、そして効果的な防止策について詳しく解説します。

自主的なサービス残業とは?定義と法的問題

自主的なサービス残業は、一見問題ないように思えるかもしれません。しかし、労働基準法第37条の観点からは重大な違反となる可能性があります。ここでは、サービス残業の定義と法的な問題点について詳しく見ていきましょう。

出典:労働基準法第37条|e-Gov 法令検索

サービス残業の基本的な考え方

サービス残業とは、従業員が残業手当を請求せずに行う時間外労働のことを指します。「自主的」といっても、労働基準法上は違法となる可能性が高いのです。

例えば、営業部門で自主的に顧客データを整理する時間外作業や、製造現場で自発的に行う機械のメンテナンス作業なども、れっきとしたサービス残業に該当します。これらの作業は、たとえ従業員が進んで行っていても、業務の一環として扱われるべきなのです。

近年、テレワークの普及により、在宅勤務中の労働時間管理が難しくなっているのも事実です。しかし、「家にいるから」という理由で長時間労働を容認してしまうのは、大きな問題につながりかねません。

自主的なサービス残業は違法になる?

結論から言えば、自主的なサービス残業も違法となる可能性が高いです。労働基準法では、使用者は労働時間を適切に管理し、時間外労働に対して割増賃金を支払う義務があると定められています。

例えば、ある従業員が「自分の意思で残業している」と主張しても、会社がその事実を知りながら黙認していた場合、法的には会社の指示があったものと見なされる可能性があります。特に管理職は、「うちの部下は熱心だから」と見過ごすのではなく、適切な労働時間管理を心掛けましょう。

最近では、労働時間の把握がより厳格に求められるようになっています。タイムカードだけでなく、PCのログオン・ログオフ時間なども労働時間の判断材料となるため、管理者が把握していないという状況は起こりにくくなっています。

自主的なサービス残業が起こりやすい状況と理由

自主的なサービス残業は、特定の状況下で発生しやすい傾向があります。これらの状況を理解し、対策を講じることが重要です。ここでは、サービス残業が生まれやすい環境や理由について、具体例を交えて解説します。

持ち帰り残業とテレワークでの長時間労働

テレワークの普及により、仕事とプライベートの境界が曖昧になっています。この状況下で、従業員が「ちょっとだけ」と仕事を持ち帰ったり、深夜まで仕事を続けたりするケースが増えています。

例えば、営業職の方が「明日の商談の準備」と称して、就業時間後もメールチェックを続けるようなケースや、システム開発者が「気になるバグの修正」を理由に、深夜までコーディングを続けるような状況も珍しくありません。

これらは一見、熱心な仕事ぶりに見えるかもしれません。しかし、長期的には従業員の健康被害やバーンアウトにつながる危険性があります。また、会社としても労働時間の管理が難しくなり、法的リスクが高まります。

残業時間の過少申告と始業前の早出勤務

残業時間の過少申告や、始業時間前の早出勤務も、自主的なサービス残業の一形態です。これらは往々にして、従業員の「迷惑をかけたくない」という善意から生まれることが多いのです。

例えば、部署の残業時間削減目標を達成するために、実際の残業時間よりも少なく申告するケースや、朝一番の会議の準備のために、始業時間よりもかなり早く出社し、準備を始めるような状況です。

こういった行動は、一見すると「模範的な社員」の姿に見えるかもしれません。しかし、実態と異なる労働時間報告は、正確な労務管理を阻害し、長期的には大きな問題につながります。

業務量過多と退社しづらい職場の雰囲気

業務量が多すぎる状況や、退勤時間を過ぎても人が残って仕事をすることが常態化している職場の雰囲気も、自主的なサービス残業を誘発する大きな要因となります。

例えば、恒常的な人手不足により、一人当たりの業務量が過剰になっているケースや、上司や先輩が遅くまで残っている職場で、新入社員が「帰りづらい」と感じて残業を続けるような状況です。

このような環境では、従業員は自主的にサービス残業をせざるを得ない状況に追い込まれてしまいます。結果として、長時間労働が常態化し、従業員の健康被害やモチベーション低下につながる恐れがあります。

自主的なサービス残業による企業と従業員へのリスク

自主的なサービス残業は、一見すると従業員の自主性や熱意の表れのように見えるかもしれません。しかし、実際には企業にも従業員にもさまざまなリスクをもたらします。ここでは、具体的にどのようなリスクがあるのか、詳しく見ていきましょう。

企業が直面する法的リスクと罰則

自主的なサービス残業を放置することは、企業にとって大きな法的リスクとなります。労働基準法違反として摘発されれば、罰金はもちろん、企業イメージの低下にもつながりかねません。

例えば、ある企業で自主的なサービス残業が常態化していたことが発覚し、労働基準監督署の立ち入り調査を受けたケースを考えてみましょう。調査の結果、長期間にわたる未払い残業代が判明すれば、さかのぼって全額を支払う必要があります。さらに、悪質な場合は刑事罰の対象となることもあります。

最近では、従業員からの内部告発や、SNSでの告発も増えています。「みんなやっているから」という認識は非常に危険です。経営者や人事担当者は、自社の労務管理体制をいま一度見直し、法令順守の徹底を図ることが重要です。

具体的な対策として、労働時間管理システムの導入や、定期的な労務監査の実施などが挙げられます。また、従業員向けのコンプライアンス研修を行い、サービス残業の問題点について理解を深めることも効果的でしょう。

従業員の健康被害

自主的とはいえ、長時間労働は従業員の心身に大きな負担をかけます。特に最近では、メンタルヘルスの問題が注目されています。

例えば、営業部門で恒常的な自主残業が続いた結果、複数の従業員が同時期にうつ病を発症したケースがあります。このような事態は、該当する従業員の人生に大きな影響を与えるだけでなく、企業にとっても人材損失という深刻な問題につながります。

長時間労働による健康被害は、単に個人の問題ではありません。従業員の健康悪化は、生産性の低下や医療費の増大など、企業全体にも大きな影響を及ぼします。

対策として、定期的な健康診断の実施はもちろん、長時間労働者への産業医面談の義務付けなど、積極的な健康管理体制の構築が求められます。また、「残業上限」を設定し、それを超える場合は上司の承認を必要とするなど、組織的なアプローチも効果的です。

適切な人事評価と労務管理の困難

自主的なサービス残業が常態化すると、適切な人事評価や労務管理が困難になります。これは、中長期的に見て企業の競争力低下につながる可能性があります。

サービス残業を前提とした業務配分が行われると、本来の業務量や必要な人員数が見えにくくなります。結果として、適切な人員配置や業務改善の機会を逃してしまう恐れがあります。

また、「長時間働いている=頑張っている」という誤った評価基準が定着してしまうと、効率的に働く従業員が正当に評価されない状況も生まれかねません。

自主的なサービス残業を防止するための対策

自主的なサービス残業の問題は、企業にとって避けて通れない重要な課題です。しかし、適切な対策を講じることで、この問題を大幅に改善することができます。ここでは、具体的な防止策について、実践的なアドバイスを交えて解説します。

労働時間の正確な把握と管理体制の整備

労働時間を正確に把握し、適切に管理することは、サービス残業防止の基本となります。しかし、特にテレワークが増える中、これが意外と難しいのが現状です。

例えば、ある IT企業では、従来のタイムカードシステムに加えて、PC のログオン・ログオフ時間を自動的に記録するソフトウェアを導入しました。これにより、在宅勤務中の労働時間も正確に把握できるようになりました。

また、製造業のある会社では、工場内の入退室管理システムと連動した労働時間管理を実施した結果、「準備のための早出」や「片付けのための残業」も適切に労働時間としてカウントできるようになりました。

サービス残業禁止の周知と従業員の意識改革

サービス残業の防止には、制度の整備だけでなく、従業員の意識改革も重要です。「残業=熱心さの表れ」という古い価値観を払拭し、効率的な働き方を評価する文化を醸成しましょう。

例えば、ある広告代理店では、「ノー残業デー」を週2日設定し、その日は強制的にオフィスの電気を消すようにしました。当初は戸惑いの声もありましたが、次第に従業員たちが効率的な時間管理を意識するようになり、残業時間の削減につながりました。

また、ITベンチャーのある会社において「残業ゼロ表彰制度」を導入したケースもあります。1カ月間残業ゼロを達成したチームには、特別なインセンティブを付与するようにしました。

この取り組みにより、チーム内での仕事の効率化や助け合いの文化が生まれ、会社全体の生産性向上にもつながったそうです。

こういった取り組みを参考に、自社でも従業員の意識改革を促す施策を考えてみてはいかがでしょうか。ただし、形式的な取り組みに終始せず、本質的な働き方の変革を目指すことが重要です。

業務の効率化と適切な人員配置の実施

サービス残業の根本的な原因の一つに、業務量の過多があります。業務の効率化と適切な人員配置を行うことで、この問題を解決できる可能性があります。

具体的には、単純作業を手動で行っているのであれば、ツールを用いて自動化したり、使用頻度の高い書類なら、あらかじめフォーマットを用意しておくといった手段を検討しましょう。

加えて人員配置についても検討すべきです。残業が多い部署の業務は適量かどうかの検証や、直近で残業が増えた部署では退職者の補填がされていないかなどを確認し、リソースが十分かどうかを考える必要があります。

自社の業務を客観的に分析し、無駄な作業や非効率的なプロセスがないか見直してみましょう。また、繁忙期と閑散期のメリハリをつけた人員配置を検討することも効果的かもしれません。

管理職の意識改革と健全な職場環境の構築

サービス残業の問題解決には、管理職の理解と協力が不可欠です。「部下が長時間働いているのは自分の手柄」という古い価値観を持つ管理職がいれば、いくら制度を整えても効果は限定的です。

この課題に対しては、管理職向けに「労務管理研修」を実施するなどの対策が有効でしょう。労働法の基礎知識はもちろん、長時間労働がもたらす健康リスクや生産性への悪影響についての学習機会を提供します。

管理職の評価項目に「部下の労働時間管理」を明確に組み込むことも効果的です。部下の残業時間が多い管理職は、自身の評価にも影響が出る仕組みを作成することで、管理職がより積極的に部下の労働時間に気を配るようになるでしょう。

サービス残業ゼロを目指した勤怠管理を

自主的なサービス残業の問題は、一朝一夕には解決できません。しかし、本記事で紹介したさまざまな対策を組み合わせて実施することで、着実に改善していくことができるはずです。

働き方改革が進む中、「自主的だから仕方ない」と放置できる問題ではありません。従業員の健康と企業の持続的な成長のために、サービス残業ゼロに向けた取り組みを本格化させてみてください。

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漏洩チェッカー 編集部

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