会計事務所と在宅勤務

新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、様々な業界で在宅勤務を導入する企業が増加しました。 会計事務所で働く開業税理士や社員税理士、所属税理士は税理士法によって2か所事務所という形で働くのは禁止されていましたが、コロナ禍の状況を考慮し、日本税理士連合会によって、2020年4月に「在宅勤務に関しては2か所事務所に該当しない」旨が発表されました。その結果、自宅でも税理士業務を行えるようになります。 自宅で業務を行う際には、税理士法第38条の「秘密を守る義務」と第54条の「税理士の使用人等の秘密を守る義務」を遵守した上で行わなければなりません。

参考:税理士の業務とテレワーク(在宅勤務)~新型コロナウイルス感染防止対応版~ - (日税連)

在宅勤務に移行する時のポイント

会計事務所での仕事環境から在宅勤務に移行する際には、まずは作業環境を整えることから始める必要があります。

税理士の仕事は、FAXを使ったり、紙の資料を郵送で送ったりなど、顧問先に合わせて行う必要があり、事務所内でのコミュニケーション環境も併せて構築しなければいけません。

ここでは、在宅勤務に移行する時のポイントについて解説します。

パソコン・スマートフォン、インターネット環境を整備する

まずは、パソコンやスマートフォン、インターネット環境などのハード面を整備していきましょう。通常業務を行う上でパソコンとインターネット環境の2つは特に欠かせないものです。

パソコンやスマートフォンなどの端末を企業に導入する方法は「事務所で用意した端末を社員に支給する方法」と「社員の私物を業務用パソコンとして利用する方法」の大きく2つに分けられます。事務所で働いている社員数が多ければ多いほど、初期費用が掛かりますが、業務で必要なソフトのみをインストールしたり、パソコン1台1台にセキュリティ対策を実施したりなどを行えるメリットがあります。

一方、社員の私物であるパソコンを業務で利用する場合、初期費用は大きく抑えられますが、事務所側での管理が難しくセキュリティ面で大きな不安を感じることになるでしょう。会計事務所の場合、セキュリティ面を考慮し、事務所側でパソコン・スマートフォンを用意して社員に支給する形が多く見られます。

参考:税理士の在宅勤務(テレワーク)。在宅勤務環境の整え方を詳しく解説!- Moneyforward クラウド

税理士業務で必要なセキュリティソフト等をインストールする

次に税理士業務で必要なセキュリティソフト等のインストール作業を行いましょう。税理士業務では、会計ソフトや勤怠管理システム、顧問先・事務所内の社員とのチャットツールなど、様々なソフトウェアを利用しています。これらのソフトウェアを安全に利用するためにも、セキュリティソフトは必須です。

セキュリティソフトは、大きく分けて「クラウド型」と「インストール型」の2つがあります。クラウド型のセキュリティソフトの場合、ネット環境さえあればパソコンへのインストール作業等を行わずにすぐに利用できる点が魅力です。クラウド型のセキュリティソフトはスムーズに導入できる反面、月額でランニングコストが発生するものがほとんどです。また、パソコンだけではなく、スマートフォン・タブレットなどでも同じようにログインして利用できる製品が多く見られます。

インストール型の場合、それぞれの端末に直接インストールする必要があり、パソコンの容量・スペック等も注意しなければなりません。ただし、1度インストールすればその後はランニングコスト等が発生することなく利用できる点がメリットです。

個人情報が含まれている紙は適切な場所で保管するようにする

税理士業務では、顧客の個人情報を取り扱う機会が多く見られます。顧問先から証憑を紙で預かるケースもあるでしょう。

在宅勤務に移行する際には、資料の保管場所を確保し、紛失のリスクを抑えた上で働く環境を整備することが特に重要です。仮に会計事務所と同じ保管環境を構築するのが難しい場合、顧問先に対して紙媒体での保管ではなく、クラウド環境でデータとして保管するやり方を提案するのも1つの手です。

多くの企業がコロナ禍の影響を受けたこともあり、業務フローの変更・改善等の提案は、顧問先からも理解を得られやすい状況でもあります。これを機に紙媒体の保管からデータでの保管への移行も検討するのも良いでしょう。

在宅勤務の3つのメリット

在宅勤務の主なメリットは下記の通りです。

社員の通勤ストレスを軽減できる

1つ目のメリットは、業務を効率的に行えるようになる点です。在宅勤務に移行すれば、通勤する手間・時間を削減できます。通勤の負担が減るため、よりフレッシュな状態で業務に取り組めるようになるでしょう。

2021年にマイボイスコム株式会社が行った「在宅勤務・テレワークに関するアンケート調査」によると「在宅勤務・テレワークのメリットだと思うことはありますか?」という質問に対して、「通勤ストレスの減少」と63.9%の人が回答しました。

参考:在宅勤務・テレワークに関する調査(第2回)/アンケートデータベース(MyEL)

次に多かったのが、時間を有効活用できる(39.8%)気候や交通状況などに左右されず業務ができる(36.4%)となっています。調査結果の通り、半数以上の人が在宅勤務によって通勤がなくなったことに対してメリットを感じていることが判明しました

会計事務所では残業が多くなる時期もあるため、在宅勤務の導入によって通勤等の負担が減るのは働いている社員にとって大きなメリットだといえます。

他にも、プライベートやリフレッシュ時間を確保したり、税理士試験の勉強に充てたりなどもしやすくなるでしょう。

会計事務所の事業継続性を確保できる

2つ目のメリットは、会計事務所の事業継続性を確保できる点です。新型コロナウイルス感染症の拡大は、事業を行う上で様々な影響がありましたが、地震・台風といった自然災害によって事業の継続が難しくなったり、一時的に中断しなければいけなかったりするケースも多くあります。

このような自然災害によって事業の継続が難しくなるケースを想定し、会計事務所へ行かなくても在宅勤務できる状態を構築することは非常に重要です。事業を継続するためにも、非常事態でも事業を行えるような仕組み・働き方の選択肢を持つように心がけていきましょう。

優秀な人材を確保しやすくなる

3つ目のメリットは、優秀な人材を確保しやすくなる点です。在宅勤務を導入すれば、介護や育児などの事情で長時間勤務するのが難しい人や、遠隔地に住んでいるため希望の職種・企業で働けないという人の採用も検討できます。採用できる人の幅が拡大するため、優秀な人材を確保しやすくなるでしょう。

さらに在宅勤務を導入することで、定着率アップにもつながりやすくなります。会計事務所の場合、顧客ごとによって対応フローが異なるため、業務が属人化しやすい点が特徴です。そのため、担当していた社員が介護・育児等の理由で離職するのは企業にとって大きなダメージになり得ます。在宅勤務を導入し、社員1人1人が働きやすい環境を作ることで、社員の定着率アップを実現できるのです。

在宅勤務の3つのデメリット

在宅勤務には多くのメリットがありますが、実際に在宅勤務へ移行する際にはデメリットについても事前に把握する必要があります。

ここでは、在宅勤務のデメリットについて詳しく解説します。

プライベートとの線引きが難しくなる

1つ目のデメリットは、プライベートとの線引きが難しくなる点です。在宅勤務を導入して事務所への移動や交通費等がなくなるのは大きなメリットです。しかし、自宅でいつでも働けるようになる分、プライベートとの線引きが難しくなったり、メリハリをつけて働けなくなったりするデメリットも存在します。人によっては疲れが溜まってしまい、業務効率が悪くなるケースもあるでしょう。

社員間のコミュニケーションが減少する

2つ目のデメリットは、社員間のコミュニケーションが減少する点です。在宅勤務では、チャットでのやり取りやWeb会議などを行うケースもありますが、同じ事務所に所属している社員と挨拶を交わしたり、雑談したりする機会は大きく減少します。直接会ってコミュニケーションをとる機会が減ることによって、孤独を感じてしまう人も多いでしょう。

特にチャットでのやり取りが続くと、指示した作業の意図がうまく伝わらない可能性もあります。自分が思っていることを齟齬なく伝えるためにも、テキストに頼りすぎずに、定期的にWeb会議などで顔を見合わせた状態で対話することも大切です。

セキュリティリスクが高くなる

3つ目のデメリットは、セキュリティリスクが高くなる点です。在宅勤務によって仕事をする場所が分散すれば、顧問先の機密情報や個人情報などの重要なデータを管理も困難になります。在宅勤務を行う際には、これらの重要なデータを守るための対策を講じる必要があります。

情報漏洩を起こさないための対策はもちろん、近年巧妙化している不正アクセスやウイルス感染などの対策も必須です。

重要なデータを守るための具体的な方法は下記の通りです。

・クラウドサービスを利用して自宅のパソコンにデータを残さないようにする
・紙媒体の書類は施錠できるスペースへ厳重に保管する

また、事務所内でも「セキュリティ事故が万が一起きたらどのような事態になるのか」「1人1人がどのようなことを心がければよいのか」を教育することも重要になります。

在宅勤務の注意点

在宅勤務を行う際には、税理士または税理士法人が常に利用状況等を監督できる状況にしなければなりません。
具体的には下記のような対策が必須です。

・職員のログインやログアウトの状態を確認できる状態にする
・自宅での業務記録を確認できる状態にする
・自宅での税務署書類の作成、送信作業に制限を設ける

加えて在宅勤務で遵守しなくてはいけないルールをまとめたガイドラインも策定しておきましょう。

まとめ

在宅勤務に移行する際には、顧問先とやり取りしている個人情報やデータの取り扱いなどを考慮して在宅勤務が可能な環境を構築する必要があります。クラウドサービスを利用すれば、自宅のパソコンにデータを残さない状態にでき、顧問先とのやり取りや職員同士のコミュニケーションも円滑に行えるでしょう。

在宅勤務へ移行すれば、通勤などのストレスがなくなり、社員1人1人の負担軽減や生産性アップを実現できます。在宅勤務への移行を検討している方は、ぜひ本記事を参考にしてください。