関連記事:自主的なサービス残業は違法?企業が順守すべきコンプライアンスや影響について解説
目次
日本の残業実態
厚生労働省によると、長時間労働によって労災として認定される基準は「週40時間を超える時間外・休日労働がおおむね月45時間を超えて長くなる」場合とされています。また、1か月の残業時間が100時間を超える場合、および2か月から6か月にわたって残業時間が80時間を超える場合には、過労死などの健康障害を発症するリスクが高まるとされています。
転職・求人サービス「doda」の「平均残業時間ランキング」によると、2022年の全職種の平均残業時間は月22.2時間でした。新型コロナ禍以前の2019年の平均残業時間は24.9時間であることから、テレワークの広がりなどを受けて残業時間が減少したものと推測されています。
他方、新型コロナ禍で医療がひっ迫するなか、医療や介護、保育などを担ういわゆるエッセンシャルワーカーは長時間労働を余儀なくされました。あるいは「2024年問題」が叫ばれる物流業界では、ドライバーの長時間労働解消と賃金の改善、物流の停滞をいかに両立できるかが、いま大きな社会問題となっています。このように残業時間は、社会情勢などによって変化することに留意する必要があります。
▼参考
・過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ|厚生労働省
・平均残業時間ランキング|doda
残業に関する法改正が進む
2019年4月1日より順次施行されている働き方改革関連法には、時間外労働の上限規制が盛り込まれました。改正後の残業時間の上限は原則「月45時間・年360時間」とし、臨時的な特別の事情以外のケースではこの上限を超えてはならない旨が明記されたのです。また、臨時的な特別の事情があった場合でも、以下を超えることはできません。
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働を含む)
・月100時間未満(休日労働を含む)
もし違反した場合、「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」の罰則が科される可能性があります。さらに2023年4月からは、中小企業でも月60時間を超過した時間外労働に対する割増賃金率が50%に引き上げられました。
一方で、業務の特性上や取引慣行の課題によって、時間外労働の上限にすぐには適応するのが難しい以下の事業・業務に関しては、上限適用が5年間猶予されています。
・工作物の建設の事業
・自動車運転の業務
・医業に従事する医師
・鹿児島県及び沖縄県における砂糖を製造する事業
なお、猶予期間終了後は各事業ごとに定められた上限規制が適用されます。
▼参考
・時間外労働の上限規制|厚生労働省
・月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省
・時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省
残業削減・対策のアイデア9選
ここでは、企業における残業対策として役立つ9つのアイデアをご紹介します。
残業を削減する取り組み
1. 残業文化を無くす
残業対策として最初にやるべきことは、経営陣から一般社員まで、企業に関わるすべての人が「残業は当たり前」と考える文化を無くし、「残業時間はコストである」と認識を改めることです。残業による長時間労働の常態化は、メンタルヘルス不調や心身の疾患、離職などを招き、ビジネスにおいて決して良い状態とは言えません。組織の価値観を見直し、残業はあくまでも「最後の選択肢」として扱うべきです。
2. インセンティブを用意する
インセンティブ(Incentive、「報奨」「刺激」)とは、行動を促すための外部刺激を意味します。インセンティブを用意することで、残業時間を減らすために、従業員が前向きに生産性を上げて業務に取り組むことが期待できます。具体例として、「残業代を〇〇時間以内に抑えた社員に手当を出す」「削減された残業代分を賞与に上乗せして還元する」などが挙げられます。
一方で、インセンティブ欲しさに残業時間を虚偽申請したり、隠れ残業を行うなどのリスクもあるため、勤務状況や労働時間を適正に管理する仕組みづくりが重要になるでしょう。
3. 残業に関する規定を明確化する
残業とは本来企業や上司の命令に基づいて行われるものであることから、残業を行うためには明確なルールや規定が必要です。企業の方針を示す文書の一つとして、残業に対する考え方や管理体制、時間の上限や制限、補償などをポリシーとして策定しましょう。また、すべての従業員が残業規定を遵守するにはどのような支援が必要かについて、企業全体として話し合うことも大切です。
4. フレックスタイム制を導入する
フレックスタイム制は、ライフスタイルに応じて勤務時間を柔軟に設定できる制度です。働き方改革関連法の改正を受け、2019年4月から清算期間の上限が3か月に延長された新フレックスタイム制が始まりました。フレックスタイムを活用することで、残業が多くなってしまった日があった場合でも、別日に勤務時間を調整することで、残業時間を削減することが可能です。
また、フレックスタイム制を活用することで、たとえば小さな子どもを育てる共働き世帯が保育園の送り迎えを日替わりで分担したり、人混みの苦手な人が出勤時間を遅らせて通勤ラッシュを避けるなど、それぞれの事情に応じて労働時間を配分できます。
参考:フレックスタイム制のわかりやすい解説&導入の手引き|厚生労働省
5. 残業の事前申請制度を導入する
残業が必要な場合には事前に申請を出し、承認された場合にのみ残業を行うのが残業の事前申告制度です。企業として「特別な理由がなければ残業はしない」という明確な方針を示すことで、残業の常態化を防ぎます。また残業時間も含めた労働時間を適切に管理することで、従業員のメンタルヘルス負担を減らす効果も期待できます。
6. 残業パターンを分析し、適切な人員配置を行う
従業員の勤怠について適切に管理し、どの部署やチームで残業が多いか、どんなタイミングで残業が増えているかといったパターンを分析しましょう。特に残業が多いところは、仕事量や人員配置に問題がある可能性があります。人手が足りない場合には適切な配置換えを行い、法定時間内に業務が完了できる仕組みを作ることが大切です。
7. 労働時間が適切に評価される人事制度を導入する
残業が多い人のなかには、難易度の高い業務をこなしている人、膨大な仕事量を消化している人と、業務は適正量にも関わらず定時内に終わらせるつもりのない人などがいます。同じ残業をしているにもかかわらず、これらが同等に評価されるのは不公平です。人事制度を策定するにあたては、残業時間ではなく残業における業務内容を正しく評価し、給与や待遇に反映できる仕組みを導入しましょう。
サービス残業や隠れ残業への対策
8. 「PCログ」を活用して隠れ残業を可視化する
隠れ残業とは、職場に申告した残業時間を超えて残業をすることを指します。このような隠れ残業を把握・管理するために役立つのが「PCログ」です。PCログとはPCの利用状況やデータ通信履歴といった記録(ログ)を指し、PCログを管理できるシステムを導入して管理するのが一般的です。これにより、残業で従業員がどのような行動をしているかが明確化され、隠れ残業がどの程度あるかを把握できるようになります。
▼参考:
・隠れ残業をPCログで見える化する|漏洩チェッカー
・PCログで勤怠・労務管理をするメリットとは?管理ツールの選び方も解説 | 漏洩チェッカー
9. 相談窓口を設置する
隠れ残業やサービス残業となってしまう理由の一つに、申告しづらい雰囲気になっていることが挙げられます。日本の労働組合の中央労働団体である日本労働組合総連合会が、2020年に実施した「テレワークに関する調査」によると、時間外・休日労働の残業代を申告しなかった理由は、「申告しづらい雰囲気だから」が26.6%で1位でした。また、「上位に申告するなと言われたから」という回答も11.7%という結果でした。
サービス残業を当該部署・組織外から監査する仕組みづくりや、残業文化が残る組織の従業員が気軽に残業に関して相談できる窓口の設置をすることで、部署外から横行するサービス残業を取り締まることにつながるでしょう。
参考:テレワークに関する調査2020 | 日本労働組合総連合会
残業削減の事例3社
ここで、実際に残業対策に積極的に取り組んで成果を挙げた事例を3つご紹介します。
1. SCSK株式会社
ITサービスを提供するSCSK株式会社では、常態化する長時間労働を経営トップが問題と捉えて改革を断行し、残業の削減を実現しました。労務環境の改善としてワークスペースが広く食堂や診療所も揃った新社屋へ移転し、残業の削減を呼びかけるとともに、「削減できた残業代は特別ボーナスとして社員に還元する」こととしました。
さらに有給休暇取得を推奨し、関連するお客様にも理解を得るために経営トップ自らが手紙を書くなど、全社を上げて残業削減対策へ取り組む姿勢が、社員の意識改革と実践に繋がったのです。その結果、月間平均残業時間は35.3時間から18.1時間へ削減、有給休暇取得率はほぼ100%にまで改善しました。
参考:自分たちから変わる、変える。SCSKの働き方改革。 働きやすい、やりがいのある会社へ|SCSK株式会社
2. 株式会社サカタ製作所
金属屋根部品の製造などを行う株式会社サカタ製作所では、専門家から長時間労働の弊害について指摘されたことを受け、残業削減を含めた働き方改革に取り組みました。使用していた基幹業務システムのコンピュータを刷新し、現状の受注状況に沿った形で生産計画を最適化したほか、新たに見積システムを開発してWeb上に公開したのです。このような取り組みの結果、これまで3日かかっていた作業を5分に短縮できるようになり、1人あたりの月平均残業時間は約18時間から約1時間まで縮減できました。
3. 川崎市
神奈川県川崎市では、長時間労働が常態化している現状を改善し、職員一人ひとりがワークライフバランスを実現できる職場づくりが進められました。まず定時退庁する曜日とノー残業デーを設け、午後8時以降の時間外勤務を原則禁止としました。また情報システム改修によって出退勤時間管理を徹底したほか、業務状況調査を実施して残業削減策を検討・推進し、業務の集約・効率化も進めました。
さらにICTを活用してテレワーク環境の構築やテレビ会議を実施、オフピーク通勤やサテライトオフィスも導入するなど、多様な働き方と残業時間を削減する取り組みを推進しています。
残業が発生する3つの理由
そもそも残業はなぜ発生するのでしょうか。ここでは、残業が発生する理由について詳しく見ていきましょう。
1. 仕事量が多い
残業時間が増える大きな理由の一つとして、仕事量が多いことが挙げられます。人員の数が何らかの理由によって不足した結果、一人一人の受け持つ仕事量が増加し、多くの残業時間が発生することに繋がっているのです。厚生労働省の「令和3年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」によると、「所定外労働が生じる理由」の就業者調査として最も多かったのが「業務量が多いため」で、43.6%にも上っています。
参考:令和3年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況|厚生労働省
2. 必要な人員が不足している
少子高齢化が加速するなか、人員不足に悩む企業は少なくありません。帝国データバンクの「人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)」によると、正社員の人手不足企業は51.4%、非正社員では30.7%となっており、とくにアフターコロナの影響による人員不足は深刻な問題になっています。
参考:人手不足に対する企業の動向調査(2023年4月)|帝国データバンク
3. 仕事における繁閑の差が大きい
繁忙期と閑散期との差が激しい業種では、それに合わせた人員配置が設定されており、繁忙期にはどうしても過重労働になってしまう傾向があります。限られた人材のなかでやりくりしなければならないため、残業が発生するのはある程度やむを得ない面もありますが、長時間労働が続けば現場の生産性や効率性は低下してしまうため、従業員のメンタルヘルスには注意を払っておかなければなりません。
また、繁忙期の目安が事前に判明しているのであれば、従業員の業務量を削減するためにも、業務委託の活用や従業員の業務を効率化させる取り組みを会社として検討することも大切です。
長時間労働による3つのリスク
企業が残業対策を後回しにし続けてしまうと、従業員の長時間労働の常態化を招きます。長時間労働は、企業にとってさまざまなリスクがあります。ここでは、長時間労働によって発生しやすいリスクについてご紹介します。
1. 過労死や労災が増加
厚生労働省の「令和3年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況」によると、2021年度の勤務問題が原因とされる自殺者の割合は全体の9.2%にのぼり、2007年以降おおむね増加傾向にあります。
また、仕事によるストレスが原因となって、心筋梗塞などの「心疾患」、脳梗塞などの「脳血管疾患」、および精神障害に当たる「業務上疾病」などが発症することがあり、このような症状によって多くの労災請求が行われていることも無視できません。上述の厚生労働省調査によると、2021年度の労災申請数は753件となっており、前年度より減少しているものの、多くの人が苦しんでいる現状が分かります。
参考:令和3年度我が国における過労死等の概要及び政府が過労死等の防止のために講じた施策の状況|厚生労働省
2. 従業員の生産性が低下
残業を含む長時間労働が継続すると、従業員の疲労度が蓄積され、生産性が著しく低下するリスクもあります。労働時間が増えることで影響を受けやすいのが、睡眠時間です。睡眠時間が現象すると心身の健康に悪影響を及ぼし、集中力が低下してしまうため、生産性が下がってしまうのです。さらに生産性が下がったことで業務効率が低下し、残業が常態化する恐れもあります。
3. 採用活動への影響
エン・ジャパン株式会社が社会人12,940名に対して実施した残業に関するアンケート調査によると、残業の有無や長さなどが転職活動に影響すると答えた割合は84%にのぼりました。年代別で見ると、20代で89%、30代で88%となっており、残業時間が多い企業には魅力を感じないと考える傾向は若い人ほど顕著です。残業が常態化している企業は、採用活動で悪影響になる可能性があります。
まとめ
多様な働き方を実現するためには、常態化している残業を社会全体として削減する取り組みが不可欠です。企業・組織においては経営陣・従業員の意識改革を行うとともに、適切な人員配置と人事制度のもとでフレックスタイム制の導入やPCログで隠れ残業を見える化するなど、効果のある働き方改革を実践していきましょう。
関連記事:建設業界の2024年問題、働き方改革を考える | 漏洩チェッカー
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漏洩チェッカー 編集部
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