【社労士監修記事】

建設業界の2024年問題とは

2019年の労働基準法改正により、時間外労働に上限規制が設けられることになりました。当初は大企業のみを対象としていましたが、2020年からは中小企業も規制対象となっています。そのため、現在は企業規模を問わず、原則として全ての企業で上限規制が適用されています。

しかし、以下の業種では、業種特有の事情から2024年3月まで上限規制の全面適用を猶予されています。

・建設業
・運送業
・医師
・鹿児島県及び沖縄県での砂糖製造業

運送業など物流業界への上限規制の適用は、「物流業界の2024年問題」として、話題に上ることも多くなっています。しかし、問題は物流業界だけに起きるわけではありません。上限規制の適用は、建設業にも多大な影響を及ぼすことが予想され、「建設業界の2024年問題」として、業界における課題となっています。

減少する建設業従事者

現在の日本では、少子高齢化の進展による労働力不足が深刻となっています。建設業も労働力不足であることは同様ですが、状況はより深刻です。 国土交通省の「最近の建設業を巡る状況について」によれば、建設業就業者は、1997年の685万人でしたが、2010年には498万人に減少し2021年には482万人と、減少傾向に歯止めが掛かっていません。

参考:国土交通省「最近の建設業を巡る状況について」

慢性化する時間外・休日労働

国土交通省の作成した「所定内労働時間及び所定外労働時間の推移(建設業と他産業の比較)」によれば、2015年における建設業の年間所定外労働時間は191時間となっています。調査産業計が、131時間であることを考えると、長時間労働の傾向が強いことがわかるでしょう。 2016年の年間出勤数も調査産業計が222日であるのに対して、建設業では251日となっています。また、建設業においては、約65%が4週4休以下で就業している状況であり、とても良い労働環境とはいえないのが現状です。 週休2日(4週8休)の導入割合は、わずか5.7%と1割にも満たない状態です。ワークライフバランスが重視される昨今にあって、あまりにも低い数字であるといえるでしょう。

参考:宮城労働局「所定内労働時間及び所定外労働時間の推移(建設業と他産業の比較)」

建設業界が抱える課題

慢性的な労働力不足である建設業界では、人手不足を補うために長時間労働や休日労働が常態化しています。労働力不足は、業界を問わない日本全体の問題です。しかし、建設業界では慢性的な長時間労働や少ない休日数など、悪条件の労働環境が労働力不足に拍車を掛けています。

少子高齢化の進展による単純な労働力不足だけでなく、悪条件の労働環境を嫌って、人が集まらないことが建設業界の問題となっています。労働力が確保できなければ、規制適用後の上限を守ることはできません。そのため、建設業界における2024年問題解消には、労働環境の改善をはじめとする働き方改革が必要となっています。

建設業界の働き方改革

上限規制が適用となる2024年4月まで間もなく、規制への対応は急務となっています。本項では、上限規制に対応するために必要となる働き方改革について解説を行います。

参照:建設業働き方改革加速化プログラム - 国土交通省

長時間労働の是正

既に解説した通り、建設業では長時間労働が慢性化しています。現状のような慢性化した長時間労働を続ければ、すぐに上限違反となるでしょう。そのため、まず何よりも働き方改革により、長時間労働を是正することが必要となります。

具体的な長時間労働の是正方法としては、勤怠管理の徹底が挙げられます。勤怠管理を徹底することで、労働時間の正確な把握につながります。建設業における勤怠管理は、作業現場などの出先からの自己申告による打刻が多く、客観性に乏しくなっています。

自己申告に頼った勤怠管理では、思わぬ長時間労働にもつながりかねません。特に手書きの日報などは改ざんの恐れもあるため、使用しない方が良いでしょう。

また、長時間労働を是とする意識を改革することも必要です。根付いた意識を変えることは困難ですが、役員や管理職が率先して、定時で仕事を終えれば労働者も後に続きやすくなるでしょう。

参考:所定内労働時間及び所定外労働時間の推移(建設業と他産業の比較)

給与

2014年のデータによれば、建設業における年間の収入は約496万円となっています。全産業計の約480万円を上回っているため、決して低い水準ではありません。しかし、建設業は危険な作業も多く、労働に見合った額ではないと判断されても不思議はないでしょう。そのため、給与を上げて、求職者にとって魅力的な職場とすることは効果的な方法です。

参考:厚生労働省「建設労働関係統計資料」

社会保険

建設業は個人や家族で行っている場合も多く、社会保険に未加入の場合が多くなっています。危険な作業が多いにも関わらず、保険による補償がないとなれば、人が集まらないのも道理といえるでしょう。しかし、社会保険の中でも労災保険であれば、建設業に多い一人親方でも特別加入が可能です。また、建設会社であれば、適切に社会保険加入手続きを行うことを徹底し、建設業界は安心して働ける職場であるとアピールすることも必要となるでしょう。

参考:労災保険への特別加入 |厚生労働省

生産性向上

生産性を向上させることができれば、少ない人数でも効率的な作業が可能となります。人手不足が深刻な建設業であれば、生産性向上による省人化の恩恵も大きくなるでしょう。

生産性向上のためには、デジタル技術の導入が効果的です。デジタル化すれば、PCやタブレット端末などで工事管理の情報が共有しやすくなるだけでなく、担当者が現場に直接出向く手間を省くこともできます。また、工程管理表や図面などをデジタル化すれば、管理に必要な手間や紛失の恐れを減らすことにもつながり、生産性向上に寄与します。

社労士視点の解説、アドバイス

ここからは、社会保険労務士として、建設業界の課題と対策を解説します。「建設業界の働き方改革」で解説した内容の実践はもちろん、本項で解説する対策も併せて実行すれば、より課題解決に対する効果を発揮するでしょう。また、具体的な上限規制の内容なども解説しますので、しっかりと内容を把握してください。

建設業に適用される上限規制

まず、建設業に適用される上限規制について解説します。既に多くの他業種では適用済みですが、2024年4月から建設業においても以下の規制が適用となります。

・年間720時間以内(時間外労働のみの時間)
・単月100時間未満(時間外及び休日労働時間の合算)
・2か月~6か月の複数月平均80時間以内(時間外及び休日労働時間の合算)

上記のような原則的な時間外労働の上限(月45時間、年間360時間)を超えて労働させるためには、特別条項付き36協定の締結が必要です。しかし、その場合であっても、上限を超えられるのは年間6回までとなっています。

なお、例外として災害復旧の事業であれば、年間720時間以内と年間6回までの2つの規制のみが適用となります。建設業であれば、例外なく全ての規制が適用されるわけではないことに注意してください。

また、上限規制に違反した場合には、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科せられる恐れもあります。規制違反により、罰則を受けたとあっては、イメージの更なる低下を招き、人手不足はより深刻さを増してしまうでしょう。しっかりと規制内容を把握し、上限を守ることが必要です。

参考:時間外労働の上限規制の適用猶予事業・業務|厚生労働省

外国人材の活用

建設業における労働力不足解消は、喫緊の課題です。しかし、労働力不足は根本に日本における少子高齢化の進展があり、一朝一夕に解決できるものではありません。そのため、国内で確保できない労働力は、どうしても外部からの供給に頼らざるを得ません。

就労可能な在留資格として、「特定技能」が2019年より新たに創設されています。特定技能は、人材確保が困難な業種において、即戦力となる外国人材を労働力として受け入れるために創設され、建設業も対象業種となっています。

現在の日本において、外国人労働者は珍しい存在ではありません。今後も外国人材の受け入れ拡大の方針は続くと考えられます。もし、人手不足を感じているのであれば、外国人材の活用は一考に値します。ただし、外国人材は言葉や文化の違いなどから、日本人労働者とは異なった配慮が必要となる場合もあります。そのため、しっかりと社内における受け入れ態勢を構築するべきでしょう。

隠れ残業の対策に、客観的な勤務時刻の把握を

既に解説した通り、自己申告による勤怠管理は思わぬ長時間労働につながりかねません。また、自己申告による勤怠管理では、残業申請をせずに行う「隠れ残業」の発生も懸念されます。上限規制が適用されれば、上限時間に達しないようにするための隠れ残業が発生することは容易に想像できます。

隠れ残業を発生させないためには、PCの使用時間やタイムカードなどを用いた客観的な方法による勤怠管理が必要となります。また、改ざんや代理打刻を防ぐためには、生体認証機能付きの勤怠管理システムの導入が効果的です。

2019年からは客観的な方法による労働時間の把握が義務となっています。労働時間の未把握は、法令違反となり、是正勧告の対象ともなります。しっかりと客観的な方法による把握を行いましょう。

参考:PCログ勤怠管理 | 漏洩チェッカー

まとめ

日本では業種を問わず、労働力不足の状態となっていますが、建設業では特に深刻です。現在の労働力不足の状態のままでは、2024年問題への対応も困難となるでしょう。2024年問題へ対応するためにも、当記事で解説した働き方改革を実行し、求職者にとって魅力的な職場とすることが必要です。